ゲストハウス 暮らしを紡ぐ宿 えのん 中村 龍太郎さん(30歳)

1人目は栃木県宇都宮出身の中村龍太郎さん。昨年ご結婚され、新婚ホヤホヤの今年1月に夫婦で移住し、阿武町地域おこし協力隊として活動しながら、クラウドファンディングにてPRを兼ね資金調達をし、9月にゲストハウス「暮らしを紡ぐ宿 えのん」をオープンされました。

Q.有名大学→一流企業と、多くの子供をもつ親御さんが羨むような人生の歩まれ方をされていた中村さんが脱サラをし、地域おこし協力隊に応募するようになった経緯、理念、きっかけなどお教えください。
-まず脱サラのきっかけですが、始まりは私の失恋からでした。
建築系の大学を出た後に私は空間デザインの会社に就職し、今まさに声高に叫ばれている「働き方改革」をオフィスづくりで解決する仕事をしていました。食事も忘れる程がむしゃらに働いた結果としてデザイン賞を頂くなど評価はされましたが、当時長年付き合っていた恋人とはすれ違い続きで気づけば関係は破綻していました。
働き方改革をかかげて働いているはずが、「仕事での成功」と「プライベートの幸せ」という自分のワークライフバランスが完全に崩れている。そんなジレンマに気づいた時、「自分は何のために働くのか?何を大切に生きたいのか?」と疑問が浮かび上がってきたのです。このままレールに乗った人生だけが本当に幸せかどうかわからなくなりました。
その後傷心旅行で沖縄ひとり旅に出かけるのですが、一人で過ごすのはあまりにも寂しいと色々調べていた時に偶然見つけたのが「ゲストハウス」という存在でした。
これまでいい大学・いい会社に入るという人生しか見てこなかった私の目の前で、そんなものは何一つ関係なく「ただ同じ日にそこにいる」というだけで人が繋がっていく光景が繰り広げられていました。職業や肩書き、年齢や性別など一切を超えてありのままの自分を受け入れてくれる世界はとても居心地がよい豊かなものでした。
ゲストハウスに集まる人たちはユニークな方たちが多く、「こんな働き方があり、こんな風に生きてもいいんだ」と視野を広げさせられる出逢いに胸が救われる思いがしました。
それから私は豊かな働き方・生き方のヒントを求めて全国の面白い人巡りを始め、サラリーマンを続けながら休日にはどこかへ旅に出ては価値観が変わる出逢いを繰り返すようになりました。それは仕事だけしていては決して得られないご縁ばかりでした。
その中であらためて、「仕事でなく暮らしを中心とした人生を生きたい」「人と人を繋げたり助け合うことに幸せを感じる」「大切な人と一緒にいられる時間を何より大切にしたい」等の自分なりの豊かさの軸をひとつずつ見出していきました。そしてこれらの軸をもとに組み立てる「理想の暮らし方」を実現するためには、やはり私を救ってくれたゲストハウスのような「縁が繋がる場所」をつくるという手段が最も適しているのではと思い描くようになりました。
そしてゲストハウスをつくる場所を検討している中で出会ったのが阿武町であり、物件の目処がついたちょうどその頃にタイミングよく地域おこし協力隊の募集がありました。地域に根ざしたゲストハウスにしたいと思っていましたので、まず自分が地域に溶け込むにはまちの仕事をして関係性をつくることから始めようと思い、応募に至りました。

Q.阿武町を選ばれたきっかけや要素は何だったのでしょうか?
-もともと萩市のゲストハウスrucoの塩満さん中心に友人がいたことや、中原木材工業の忠弦さんの奥さんとは例の傷心旅行中に沖縄のゲストハウスで出会っていたりと、萩市のキーマンたちと少しずつご縁ができていました。その後2017年に開催された「全国移住ドラフト会議」という移住系イベントにて阿武町の方と知り合い、萩市の隣ということを聞いて最初はただ萩に行くついでに遊びにいってみようという軽い気持ちでした。
今の物件はもともと別の地域おこし協力隊の方がバーをやっていたところだったのですが、私たちの想いに共感してくれたのか阿武町を初めて訪れた際にその場でその物件を引き継がせていただくというありがたいお話をいただき、一気に妄想は膨らみました。
そして地元の人が「何もない」というこのまちには、移住者のわたしたちから見れば「”余計なものが” 何もない」とでも表現すべき、圧倒的な風景の美しさと暮らしの文化があると感じました。なにより、阿武町で一番魅力的だと感じるのは「暮らしている人の顔が見えること」です。路地や通りですれ違う人と挨拶を交わしたり、そのままふらっと道端で立ち話をしたり、野菜をおすそ分けしあったり。よそ者である私たちにも最初からとてもよくしてくださる方の本当に多いこと。そして「〇〇の仕事をしている△△さん」ではなく、肩書きや年齢関係なくありのままを認め合い、お互いを名前や愛称で呼び合う風土がここにはあります。としまんはとしまん、ふーちゃんはふーちゃん、たまちゃんはたまちゃん。これがゲストハウスでの出逢いの感覚にも似ていてとても居心地がいいのです。将来自分たちのしたい暮らしや、いずれ子供ができたときのことなどを考えたとき、阿武町や萩の方々に囲まれて暮らしている自分たちの姿が自然と目に浮かび、ここでならやっていけるだろうという安心感から最終的に移住を決断しました。

Q.ゲストハウス「暮らしを紡ぐ宿 えのん」のコンセプトをお教えください。
-宿のコンセプトは「縁が繋がり、恩が循環する」。これまでたくさんの方との出会いやご縁があったからこそ、ここまでこれたと思います。だから私たちもこれまでつないでもらった縁の恩返しをしたい、そしてこれからも新しい縁を繋いでいきたい。そんな場所に育つようにこの名前をつけました。(縁+恩=EN+ON=ENON=えのん)
また「暮らしを紡ぐ」という部分ですが、これは私が大学生の時に東日本大震災で被災した経験も大きく影響しています。建物の被害だけでなく、電気・水道・ガスが止まっただけで生活は困窮し、お金はあっても食料が手に入らないという経験がありました。近年の大型台風や集中豪雨などの災害でもそうですが、過度にインフラに頼りただ消費することで成り立っている都会の暮らしは脆弱な一面があると感じています。一方で阿武町での暮らしは、手作りで丁寧に積み重ねていく毎日の繰り返しです。畑の野菜づくりも、新芽でつくるお茶づくりも、冬に備えた保存食づくりも、地域の人との関係性づくりも。そして、ここに住む方達は、それを自然に実践して助け合って暮らしている。お金を使って得ること以外にもっと大切なことがあるのではないかと思っていたので、このように手間暇をかけてつくるひとつひとつの時間はとても優しくて温かく、わたしたちもこんな風に暮らしを紡いで生きていきたいという想いを込めています。

Q.今年9月14日のオープンまでの思い出や何か特別なエピソードなどございましたらお聞かせください。
-やはりほとんどの改修工事をみんなでDIYで作り上げたことが記憶に残っています。「人がたくさん来てくれる場所をつくるなら、たくさんの人でつくったほうがきっといいものになる」という想いですべての作業をイベント化したのですが、阿武町・萩の友人や東京の友人、日本各地で出会った旅仲間、それだけでなく初めましての方や通りすがりの方など、最終的には延べ100名を超える方がお手伝いに参加してくださいました。「あの壁はあの人が塗ってくれた、ここの床はあの人が貼ってくれた、、」宿のすべての場所で、作ってくださった方の顔を思い浮かべることができます。恩返しをしたくて宿をはじめるつもりが、返したい恩ばかりどんどんと増えてしまうという今では笑い話のような幸せな時間でした。あらためて、本当に本当にありがとうございました。これからそのありがとうを少しずつお返ししていきたいと思います。

Q.オープンされ1ヶ月半が経ちますが、手応えはいかがですか?
-えのんのコンセプトにもとづいて「ここでご縁が紡がれたかどうか?」という意味の手応えとしてはとても印象深い出来事がありました。
オープン初日に宿泊してくれた友人が夜バーで飲んでいる時に、地元の漁師さんが顔を出してくださり、いつの間にかその2人の話に花が咲いて翌々日の漁に一緒にでかけていったことがありました。しっかりとお土産にハマチをいただいて帰ってきた友人はとてもいい経験ができたと嬉しそうに話してくれました。
宿に泊まる人と、遊びに来た地元の人が本当に偶然ここで出会い交流する。おそらく、えのんがなければ生まれなかったであろうご縁。オープン初日から「この宿をはじめてよかった」と思える光景に出会えたこと、それはわたしたちのかけがえのない喜びとなりました。
売上やお客さんの数という目標ではなく、これからもこのような縁と恩を大切にこの場所を育てていきたいと思います。

Q.最後に読者の方にPRをどうぞ!
-ここまで長文を読んでくださって誠にありがとうございます。わたしたち夫婦は阿武町、ひいては山口県の出身ではありませんが、自分たちの暮らしや人生を真剣に見つめなおした結果ここに移住してきました。東京で暮らしたよそ者だからこそ胸を張って言えますが、この地域の自然や食材や人々の温かさ、暮らしの文化は本当に豊かで魅力的だと思います。まだまだわたしたちの知らないお宝もたくさん眠っていることと思います。だからまず、できるだけたくさんの方にお会いしてその魅力をもっともっと深く広く知って吸収していきたいです。そしてわたしたち自身がみなさんとのご縁を紡いでいきたい。山口県という温かい方の多い土地で、その一員として暮らせる喜びを感じながら、わたしたちも少しずつ山口県のファンを増やせるよう頑張りたいと思います。どうぞ、末永くよろしくお願いいたします。是非一緒に楽しいことしましょう!!

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