連載 むつみ豚と雨女vol.37

火事場の馬鹿力というものは実在するのだ。
5/14未明、普段おだやかな農村が消防車のサイレンとともに騒然となる。
とにかく走った、疾風のごとく。いや、めっちゃ遅かったと次男坊には言われたから、体感的には全力疾走でも、客観的にはドタバタしてただけなのかも。ではなんだ、数日たっても残るこの筋肉痛は。

このたび小野養豚の堆肥小屋から火災が発生しまして、読者の皆様にも大変ご心配をおかけしました。小屋と言ってもちょっとした体育館くらいの広さがあり、まだまだ後片付けに追われる毎日であります。

この堆肥小屋、20年ほど前に先代じいちゃんが手作りで建てたもの。山から伐り出した木とどこかでもらってきた木の電柱とトタン屋根でできている。雪に耐え、台風に耐えてきたが火事には耐えきれず半焼。

この数年は半分隠居、半分仕事の生活をしていたじいちゃん。火事で元来の不屈の闘志に火が付いたか、火事の翌日には山から木を伐り出す算段をしている。じいちゃんも歳やし、業者さんに頼んで作ってもらおうよ、と言ってはみるが『いんや、自分で作る』と頼もしいような、心配なような言葉。昨今、木の電柱を入手するのは難しいので山から伐り出すのだ。

ワタクシは普段、事務仕事と配達を主に担当しており力仕事ではほとんど役立たずオバサン。重機に乗れるでもなし。それでもワタクシの中に流れる農家と牛飼いの血。野山を駆けずり回ってた少女のころを思い出しじいちゃんの手伝いをするのだ。こんなことならフォークリフトやらチェーンソーの講習受けとくんやった。

伐り出した木は皮を剥かねば使えない事を初認識。
目下のワタクシの仕事は木の皮むき。すぐにマイ道具マイウェア購入。形から入り自分はできると暗示をかける。

この疲労と共にある充実感はなんだろうか。