連載 福岡で暮らす萩LOVEパパの子育て記 第26回

福岡に引っ越す前、東京のテレビ局で6年間、ドラマ制作の仕事に携わっていました。「照明さん」という役割で、スタジオセットや俳優さんをライトで照らす仕事です。先週末、家族でドライブしているとき、車のテレビで「ドラマ制作の舞台裏」という特集番組が流れてきて、その中に当時、あこがれ続け、慕い続けた先輩の姿がありました。15年ぶりに見る姿に、ハンドルを握る手が震えて、車線を変更しました。
その日の夜、当時担当したドラマを家族で鑑賞。「パパこれやってたの?」「すげー!○○恭平に会ったの?サインはもらった?」…地方で育つ少年少女として健全な興味関心にフフフと答えながら、当時の現場を懐かしんでいるうちに、1つ、大事なことに思い至りました。
この先輩は徹底的に後輩を怒りました。「てめぇこの野郎ふざけんじゃねょぉ!」「リハでできねぇことが本番でできるわけねぇだろ!(ケツを蹴飛ばされる)」今でも耳に残る罵倒の数々…しかし思えばその時、まわりではたくさんのスタッフ、大御所俳優がそれを見ていたわけです。「怒ってるけど、あいつ本人はたいした仕事してねえじゃん」少しでもそう思われる負い目があれば、あんなふうには怒れなかったはず。照明という1つの責任を負う立場で、念入りに準備をして、覚悟を持って、後輩を率いて現場に入っていた先輩の…本気。その2文字に思い至りました。
ああ自分は、後輩を大声で罵倒できるほど、本気で仕事をやり切れているだろうか?「てめぇその程度で思いあがってんじゃねぇよ!」「パパどうしたの?」ありがたい罵声が聞こえてくるようで涙ぐむパパを不思議そうに見ている子供に、何か伝えたいと思ったけど、どうにも言葉にならない夜でした。