映画「八重子のハミング」佐々部清監督インタビュー

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10月末より、山口県内で先行上映され、萩ツインシネマでも好評上映中の「八重子のハミング」。金谷天満宮宮司(萩市椿)の陽信孝氏の自伝が原作の作品です。もうご覧になられましたか?萩市内はもちろん、長門市でもロケが行われ、映画には、皆様にもお馴染みの風景が数多く収められている一方、アルツハイマー病や老老介護をテーマに夫婦の純愛を描いています。この映画を「命を懸けて撮影した」と公言されてきた佐々部監督にお話を伺いました!

Q.この映画は、映画会社の支援が受けられず、監督自ら資金集めをされたということですが、どうして製作しようと思われたのですか?
A.いくつか理由はあるのですが、この映画は、全ての映画会社から、中高年向けの映画は客が入らない、地味だと言われ断られました。 私が下関でやっている海峡映画祭は、田中絹代さんの映画など古い映画を上映しており、シニア層が多く訪れます。そういった方たちの声を聞くと、シネコンの入り方がわからないとか、若者向けが多く、自分たち世代が見る映画がないと言います。そういった理由が一つ。それと、昨夏、私の母が亡くなりました。私の映画を楽しみにしてくれていた母が、亡くなる3年くらい前から、映画のことも、僕のこともよくわからなくなってしまったのです。母はどんどん小さくなっていくし、介護する妹も疲弊していく。このままでは、妹がおかしくなってしまうのではないかと思っていました。友人とそんな話をすると、同じように親の介護を抱えている人が多く、これはきちんと映画にしなければならないと思ったのです。また、昨年公開された「群青色の、とおり道」という映画を製作したのですが、これは、群馬県太田市の合併10周年を記念した映画で、主に行政からの支援をもとに製作し、企業から協賛金を集めて宣伝を行いました。萩でも同じような形でできるかもしれないと思いましたし、一緒に映画を製作した若いプロデューサーが、「八重子のハミング」の脚本を読み、私の背中を押してくれたことから、野村市長を訪ね、映画化が進んでいきました。

Q.萩での撮影中、印象に残ったエピソードはありますか?
A.実は、県内で製作費集めをしていた際、人口や企業が少ないということもあるのでしょうが、萩市は順調には進みませんでした。しかし、行政も製作費を支援してくれ、それでも足りない分は、地元の支援者の方たちが協賛金を集めてくれました。また、その方たちが、撮影中には食事の応援や車の手配など、いろいろ助けてくれ、応援してくれる方が多かったですね。ただ、申し訳ないと思っているのは、今回、集めていただいたお金を無駄遣いしたくないという気持ちが強く、地元にお金を落とすことができませんでした。これまでは、宿泊や食事などは、東京で作ってきたお金を地元に還元することができたのですが、今回は節約、節約で、それもできず、人の力を借り続けたことは申し訳なかったという思いがあります。しかも、製作費を集めていただいたからこそ、失敗はできません。僕が「命懸け」と言い続けてきたのはそういうところですね。

Q.映画は、ほぼ原作通りでしたが、監督オリジナルの演出はあったのでしょうか?
A.映画のラスト、幻の八重子さんが登場するところです。ずっとアルツハイマーが進行していく様子を女優・高橋洋子さんに演じさせたのですが、最後に一番美してく若々しい陽子さんを撮ってあげたいと思ったのと、12年間介護し続けた旦那さんに、八重子さんが最後に何か一言お礼を言って欲しいなと思ったんです。救いというか、ただただ介護の映画にはしたくなかったのです。

Q.この映画を見て、どんなことを感じてもらいたいですか?
A.ひょっとしたら、この物語は理想形かもしれないです。家族がいなければできないことですし、自分だったら一週間もたないような気もするし。例えば、夫婦で見たならば、映画を見終わった後に、小一時間、お茶でも飲みながら語り合ってもらえたら。自分だったらどこまでできるかなって、その準備みたいなものを考えてもらえたら良いですよね。それが映画の素敵なところだと思うんです。僕は、何のために映画を撮るのかをすごく大切にしています。これから日本は高齢化がますます進んでいき、介護の問題は切っても切り離せない問題になっています。だから、この映画が必要だって思い、作りました。

Q.監督人生において、どんな映画になりましたか?
A.まだあと何年かは映画を撮り続けたいと思っているので、その通過点ではありますが、製作費集めなど、ゼロから始めた映画はこれが初めてです。30ページほどある分厚いパンフレットも自分で責任編集して作り、大林宣彦監督や山田洋二監督、谷村新司さん、落合恵子さんのコメントも、自分でもらいに行きました。こんなこと今までやったことはないので、17本目の我が子だけど、飛び抜けて異質な我が子であり、愛しいです。だから、いつものように、公開から半年たったらDVD化という形にはしたくないですね。来年5月から東京での公開が始まりますが、何とか上手くヒットしたらと思いますし、中高生にも見てもらいたいので、学校で団体鑑賞してもらないかと思っているところです。出資してくださった方に少しでも手厚くお返しすることができたらと思っています。

Q.地域の皆様にメッセージをお願いします。
A.萩市がメイン舞台ということから、人口比率に対して、萩は一番動員が良いのではと自信を持っていたのですが、実は、下関や周南、防府、宇部のほうが良いのが現状です。もちろん、行政からの支援も一番大きく、地元の方たちにも応援していただき感謝しています。しかし、行政が支援をしてくれたということは、皆さんの税金ということでもあります。その結果を、ぜひ劇場に見に来て欲しいという思いがありますね。田床山や椿群生林、藍場川などで撮影したシーンは、天気や時間帯、光線の入り方など、こだわりを持って撮影しました。原作者は陽先生ではありますが、佐々部が作った、升毅、高橋洋子主演の映画として見てもらえると良いなと思います。

「八重子のハミング」
萩ツインシネマにて、来年5月の大型連休頃まで上映予定
☎0838・26・6705