北浦に映画館の灯火を!萩ツインシネマ支配人 柴田寿美子さんインタビュー

今年2月突然の映写機の故障から存続の危機に陥った山陰地方西部では唯一の映画館 萩ツインシネマ。映写機を新規購入することを約束に代替え機をレンタルし3月9日から営業再開。600万円の購入費をクラウドファンディング(6月10日に目標金額300万を突破)と寄付で募り、何とか映画館の灯を残そうとするNPO法人萩ツインシネマの副理事長であり、萩ツインシネマの支配人の柴田寿美子さんにお話を聞いてきました。

■映写機が故障したときはどんな気持ちでしたか?
‐計画停電があったといえど運営側のミスだったので、やはりショックでした。とはいえ故障した映写機の耐久年数も過ぎていたので諦めもあったというか、ついにこの時が来たかという思いもありました。というのも映画館存続のため長くやってきましたが、映画館営業では採算は取れず、NPO法人化して会員からの会費を財源としながら、配給会社と契約し、負債を返しながらの経営でしたので、新しい映写機を購入できるだけの資金力もなく、何かが起こった時に、この映画館は無くなるんだろうなと冷や冷やしながら毎日を過ごしていました。できるところまでやって自分の責任の内で畳むことができたらなと考えるときもありました。

■以前取材させてもらったとき、地方の映画館運営の難しさや映画業界ならではの裏話など色々聞かせていただきました。今のお話で、負債を返せてることにも少し驚きなのですが…。
‐数年前、経営方針を変えました。それまで雪だるま式に負債が増えていたのを何とかしなければならない。映画業界独特の売り手市場の枠の中にいると、10万人以下の地方都市では必ず倒産します。配給会社の方からも「はやく畳んだほうがいいですよ。」と言われることも多々ありました。フィルムを売るほうがそう言えるくらいの世界なんです。なので、その枠から離脱し、都市部の映画館で上映しなくなったような人気映画のフィルムやシネコンが扱わないマイナーなフィルムなどを上映し、また従業員に辞めてもらい私一人で営業するなどコストカットに努めました。NPOの会員様から頂いている会費は、ツインシネマを通常の映画館としてやっていけるように運用するというか、あくまで映画館として存続させるために運用させてもらっている状態でした。そうして負債はまだ無くならないながらも3年前より単年度では黒字というところまでは来てたのですが…。

■故障したときはXデーが来たという感じなのですね。このまま畳もうと考えてた柴田さんにとっては、「存続」へ舵を切ることになったとき、どのような思いでしたか?
‐驚きましたね。面白いもので通常運営しているときは見向きもされないのに、「無くなる」となると人は関心を寄せます。興業としてなりたっていない映画館でも一つの文化が無くなることは免れたいという方が多いです。故障後の会議では、私が畳むことを提言したら、そうなるのだろうなと思っていたのですが、会議に集まった方々は当たり前のように「存続派」でした。

■とはいえ、修理もできない、購入資金もない。八方塞がり感が漂ったのでは?
‐存続の方向に決まったので、もう腹を括って何とかしなければと、藁をも掴む気持ちで、関係業者に問合せしまくりました。運よく「購入してくれるのなら代替機を貸しても良い」という方がおられ、取りあえずの延命ができました。あとは購入資金を期日までに調達することが課題となったのですが、借入できる状態でもない。そこでクラウドファンディングを使おうという話になりました。

■クラウドファンディングは期日前に目標金額を超えましたね。それでも購入費の半額に満たないですが…
‐はい。足りない分は映画館の窓口で寄付を募り、それでも足りない場合は理事が補填するようになるだろうなと思っていましたが、予想外に寄付してくださる方が多く、驚くとともに感謝しています。

■それだけ映画館を失いたくないという方が多いのでしょう。しかしながら映写機を新しくしたとしても根幹の問題解決にはなっていないのではないでしょうか?
‐そうです。今の形態のままでは、何年か先、機械が故障したり何か大きな設備投資をしなければならなくなったとき、再度存続の危機となってしまいます。かといって一般的な映画館経営はできない。もどかしいばかりです。

■興業として成り立たず、文化として残したいというのであれば、行政の外郭組織として運営してもいいのではと思ったりもしますが…。公営の映画館って全国に他にないのですかね?
‐全国にはいくつかあります。図書館や博物館のように人件費だけでも何とかしてもらえればと思うところもありますが難しいでしょうね。なので、会費収入やチケット販売収入以外の収入を増やし、来るべき次回の存続の危機に備えなければと考えています。ライブなどのイベント会場として使ってもらうことは今までもありましたが、あらゆる可能性を模索しているところです。

■なにはともあれ、この度の危機は多くの方々の支援によって乗り越えることができそうですね。
‐はい。ただただ感謝の念しかありません。お一人おひとりにお礼をしたい気持ちでいっぱいです。そのためには映画館の灯を点し続けていき、映画文化を未来に紡いでいく。その覚悟を決めたというか、責任をもって取り組まさせていただきます。

■北浦うぇぶでも協力できることがあれば協力させていただきます。