荒川蒲鉾店の魚ロッケ、天ぷらを残したい! 矢次蒲鉾店の挑戦!2次産業の事業継承!

伝統製法で作られる萩の焼き抜き蒲鉾は、江戸中期より、地元だけでなく、全国に広く知れ渡る逸品。しかしながら、時代と共に若者の蒲鉾離れにより消費量は低減し、一つまた一つとお店を畳まれるようになっています。そして、一昨年11月には、「魚ロッケ」の商標登録を所持する荒川蒲鉾店が閉店し、現在、萩市では5つの蒲鉾店が残るのみとなりました。そのような中、既存の蒲鉾店は持続可能性を模索し、商品開発、新規事業と、生き残りをかけて取り組まれておられます。この北浦うぇぶでも、近年、蒲鉾店の新たな挑戦を、いくつか紹介させていただいています。この度は「ごぼう巻きと言えば矢次」と評を博す矢次蒲鉾店の新たな挑戦について、店主・矢次勝己さんに聞いてきました。

■一昨年11月、市民に惜しまれながらお店を畳まれた荒川蒲鉾店の魚ロッケと天ぷらを、矢次蒲鉾店で引き継き、販売されると聞きました。経緯をお聞かせください。
-多くの蒲鉾店では、蒲鉾だけでなく、同じ練り製品である天ぷらも製造販売していますが、矢次蒲鉾は、蒲鉾、ごぼう巻き、志田巻のみと、これまで揚げ製品を生産していませんでした。また、私自身、荒川蒲鉾の生のエソで作られる天ぷらのファンで、日頃より、天ぷらが食べたいときは荒川蒲鉾に行って食べていました。当時より「いつかは矢次でも天ぷらやりたいけどね。」と荒川さんに伝えていたのですが、昨年「もうやめるよ。」と言われ、矢次で天ぷらをやりたいという思いというより、荒川蒲鉾の魚ロッケ、天ぷらを萩から無くすわけにはいかないという思いが芽生え「荒川さんの味を継承したい」と申し出ました。時を同じくして、荒川さんサイドでも「荒川蒲鉾店が無くなることを惜しむ人が多いので、どなたかに事業継承されてみては?」という話が金融機関からあったそうで、私の申し出を快く承諾してくれました。

■ご自身が荒川蒲鉾のファンだったのですね。一昨年11月の閉店から1年以上経ちますが、継承するまでのハードルは高いものですか?
-そうですね。これまで矢次蒲鉾では揚げ製品を取り扱っていなかったので、先ずは設備を揃えなくてはなりませんでした。新しい機械を購入すると、償却には何十年単位となります。まだ若かったり、後継者が決まっていれば、それほどハードルは高くないのかもしれませんが、私も60歳手前で、あと30年も40年も働けるとは思いませんので、額の大きい設備投資をすることはとても勇気がいることです。本腰を入れ始めたのは昨年の3月ごろで、当初は経済産業省の事業再構築促進事業の補助金を使おうと考え、2か月くらい何とかならないものかと調べていたのですが、継承とはいえ、蒲鉾店が新しい商品を出す程度では採択されないことがはっきりし、新品の機械を購入することを諦めました。ならば中古を手に入れようと考えますが、基本、蒲鉾の機械は故障し、修復できなくなるまで使われるので、市場に中古は出回りません。何とかならないものかとメーカーに問い合わせたところ、メーカーの退職者で個人的に中古機械を取り扱っている人がいると聞き、紹介していただきました。そうして、成型機、フライヤー、パン粉付け機、脱油機の見積をお願いしたら600万円弱。作業場の改築費を合わせると800万円ほど資金が必要でした。コロナ禍で売上が下がっているなか、できるだけ支出は押さえたい。何か使える補助金制度はないものかと色々と探しましたが、2次産業が対象の制度は思う以上にありませんでした。そうして、「がんばろう萩!事業承継・事業引継ぎ支援補助金」の申請を考え、足らないところは金融機関に融資してもらうしかないと決めたのが6月くらいです。そうして、資金の目途が立ち、昨年11月下旬に機械が納品され、荒川さんから指導を受けながら今年に入り、やっと店頭販売にたどり着けました。また、12月に商標登録移管の申請をし、現在承認待ちといったところです。

■地方の事業継承が問題視されている時代ですが、なかなか見合う制度がないものなんですね。
-あるのにはあるのですが、額が合わないといったところでしょう。そもそも潤沢な利益が出ている事業であれば、後継を志願する人もいるでしょうし、苦労と利益が見合わないから事業継承が難しいとされていると思います。機械や店舗を購入、または譲りうけるにしても、4桁はいきますし、どの職でも、技術を習得するのに最低でも4.5年はかかり、その間、従業員として働きながら習得してもらうには、人件費も必要です。1次産業には就労者を増やすための助成制度がありますが、2次産業には割に合う制度が少ないなと感じています。この度の継承では、同業者同士で、少なからず練りもののノウハウはあり、加工機械もありますので、ゼロから事業継承するのに比べ、遥かに低コストで取り組めているのも確かです。

■その他、継承するに大変だったことはありますか?
-大変だったというか悩ましかったところでは、価格設定でした。補助金、融資の申請するにあたり試算したところ、荒川さんが販売してた価格より最低でも2割ほどは値上げしなければならず、自分自身荒川蒲鉾の魚ロッケ、天ぷらのファンだったので、当時の価格より値上げすることに抵抗がありました。

■価格設定は萩市の事業者の悩みどころですよね。魚ロッケファンの一人として言わせてもらえれば、もっと設定を高くされても良いかなと思います。実際、物価は上がっていますし、利益がでなければ、持続するのも困難になります。魚ロッケが無くなり惜しむ人は少なくなかったのですから、しっかり利益を取って、生のエソを使った魚ロッケ、天ぷらを守っていただければと思います。
-そう言ってもらえるとありがたいです。確かに、原材料は高騰しています。SDGsの観点からも今後、油の価格は必ず高くなってきますから、荒川蒲鉾の魚ロッケ、天ぷらの味を長く守っていけるよう、しっかり考えたいと思います。

■今後の展望についてお聞かせください。
-1月13日より店頭での販売を開始し、並行して、現在、山口県よろず支援拠点におられるデザイナーにパッケージデザインをお願いしています。パッケージの準備ができましたら、スーパーや量販店に卸す予定です。概ね3月の中旬くらいになるのではないかと思います。
古くから荒川蒲鉾の魚ロッケ、天ぷらを好んでいただいている方々はもちろん、これを機に口にしてもらえる方にも、気に入ってもらえるよう努めていきたいと思います。

■ありがとうございます。

矢次蒲鉾店
山口県萩市恵美須町1
☎ 0838-22-1337
営業時間 8時~17時30分
定休日 日曜日