毛利氏の御座船謡として、藩主が乗船するときや新造船が進水するとき、御船倉で代官が乗り初めの行事を催すときに演唱されていた御船謡。1659年に住吉神社が勧請されてからは、その神幸祭に山車「お船」の上で謡われるようになりましたが、藩政時代には一般人が「御船謡」を演唱することは禁じられ、藩の階級である「浜崎歌舸子」の家柄の者14人だけが演唱することができるといった悠久の歴史を持つ伝統芸能です。
その御船謡も新型コロナの影響により、萩夏まつりでの演唱は2020年から2年連続して中止となり、昨年は熊谷町までと規模を縮小して廻られていましたが、新型コロナが5類感染症となった今夏、再び田町までお船が引かれます。北浦うぇぶ今号では、今年度より地謡会謡長(並びに御船謡保存会会長)に就任された武安和孝さんにお話しを聞いてきました。
■今年度より歴史ある住吉神社御船謡の謡長となられました。何代目とかあったりするのでしょうか?
-江戸時代から受け継がれているもので、流石に私が何代目かはわかりませんが、地謡会謡長が御船謡保存会会長を兼任するようになったのは、保存会が出来た昭和30年代だと聞いています。
■武安さんご自身が乗船されるようになったのはいつ頃で、どのような経緯でしょうか?
-私が乗船するようになったのは平成8年からです。元々浜崎出身で、父も地謡会の一員でしたので、浜崎に戻ってきたタイミングで声をかけていただいたのがきっかけです。
■浜崎歌舸子の家柄だったということでしょうか?
-いえ、歌舸子で相伝されていたのは江戸時代のみで、明治に入ってからは御船謡という行事そのものが浜崎の大問屋中心に催されており、昭和に入ってからは、浜崎の問屋も少なくなり、問屋さんや商売屋さんだけでなく、浜崎在住の方、住吉神社関連の町内の方にもお船に乗りませんかと声をかけられるようになりました。現在も基本的には、浜崎在住であったり、浜崎出身であったり、浜崎に所縁のある人を中心に構成されています。
■現在、地謡組のメンバーは何名でしょうか?
-現在は17名です。船の大きさにより乗船できる人数が限られ、最大で20名程度となります。
■お祭り当日は、一度お船に乗ると中休みの時間以外は、何時間も乗船したままでトイレにも行けないと聞いたことがあります。もっと人数を増やしターンオーバー制にしたらと思うところはありますが、やはり当初は歌舸子の家柄のみという崇高なもので、以後もインビテーションなしには組員になれないというところも関係するのでしょうか?
-そうですね。明治以降も大きな問屋さん達で担っていたところもあり、会員に選ばれるのも一つのステータスであったと思います。ですので、どなたかが引退されたときに新たに声をかけさせていただくといった形を継承してきました。また、御船謡の練習は7月1日から始まり7月31日までの平日に「当屋制」といった制度で行われます。この「当屋制」というのは、各会員の自宅で練習を行うもので、会員が17人であれば少なくとも17回会員宅での練習日が設けられます。練習も一堂に会して行われているので、会員の家は最大で20名が入れる居室があるのが前提であったと思います。現代では、そのような大きな家を建てられることはほとんどないので、浜崎2区の会館や住の江保育園の遊戯室などをお借りして練習する日もあります。結果、ほぼ毎晩練習となります。この「当屋制」も御船謡を継承する一つの伝統ですので、20人以上になることはないかと思います。トイレの心配をされますが、真夏の暑い中、着物で正装して巡行します。水分は全部汗になって出ていきますので、トイレに行きたくなることはありません。中休憩以外で下船することがあるとすれば体調を崩され演唱が困難になったときになりますが、これまでほとんどありません。
■演唱される場所とかは毎回決まっているのでしょうか?
-神社との関係や古くからお付き合いがあるところがメインとなり、だいたい同じルートになりますが、今年は新規に2件ほどご依頼がありました。
■依頼すれば立ち寄っていただけるものなのですね。知りませんでした。
-主にお船の巡行ルート沿線になりますが、ご依頼は今も変わらず承っております。とはいえ、1日の時間もルートも限られておりますので、日付が変わる前の「おあがり」に間に合うようにするには60件くらいが最大件数になります。
■その他、一般に知られてないことなどありますか?
-そうですね。御船謡は口伝であって正解はないといったところでしょうか。先輩から暗黙のルールみたいなものを受け継いで、それを正確に後輩へ伝えていこうと思っています。
■最後に読者の方にPRなどありましたらどうぞ。
-4年ぶりの市内巡行となりますので、是非お近くにお船が寄ったときには、御船謡を聞いていただきたいと思います。また22時くらいから住吉神社にて「おあがり」が行われます。その年の御船謡のクライマックスでもあり、一番盛り上がりをみせますので、夜ではありますが、お時間が許される方は是非お越しいただきたいです。なお、市内巡行を終えた後で、時間が流動的なものとなりますので、余裕をもってお越しいただければと思います。
■ありがとうございました。
