今年11月11日、萩市須佐に船舶整備会社・株式会社須佐海興が設立され、この12月1日に開業されました。須佐で水揚げされる活きたケンサキイカを「須佐男命いか」としてブランド化するなど、須佐漁港は県北漁業の一端を担う地域です。しかしながら、今年の4月、須佐・江崎地区に唯一あった船舶整備会社が会社を畳むこととなり、漁業者の方だけでなく、地域が抱える問題のひとつとなっていました。
この度の北浦うぇぶでは、須佐漁業の存続だけでなく地域活性化をも目指し、船舶整備会社を開業された西田晶さんにお話しを聞いてきました。
■西田さんは下関市から移住して来られた方だと聞きました。須佐で船舶整備会社を開業することに至った経緯をお聞かせください。
-出身は下関ですが、山口市にある自動車ディーラーで勤めておりまして、下関ではなく、山口市からの移住になります。20年ほど前から趣味の釣りやマリンレジャーを楽しむため山口市から須佐地区へ度々訪れていました。その中で出会い仲良くさせていただいていたのが、今年の4月に廃業された船舶整備会社・日本海コマツサービスの社長でした。そして、今年の2月に社長から「事業を引き継いでくれないか」と言われ、初めは社交辞令だと思っていたのですが、その後、社長が入院することになり、見舞いに行った際、鬼気迫る雰囲気で「このままでは須佐の水産業が消滅する。私も自動車整備工出身だから西田さんにもできる。」と言われ、社交辞令ではなく、本当に考えられてることなんだと解りました。
■なるほど。新しく会社を設立しながらも実際は事業継承という形なのですね。
-はい。簡単に説明するとそうなるのですが、社長に引き継いでくれと本気でお願いされたものの、生活基盤がガラッと変わることですし、従業員もおられ、流石に、二つ返事というわけにはいかず、先ず、直近5年間の決算書を見させてもらいました。当たり前ではありますが、業績が好調であれば、他の仕事をしていた私じゃなくても、同業の方が買収されたり、従業員の方が事業継承されたりするのが一般的なわけで、日本海コマツサービスの経営状態はお世辞にも良いとは言えないものでした。それでも、社長の「須佐の水産業を消滅させたくない」という思いに応えたいと思いましたし、何よりも従業員の方々が「西田さんがやってくれるなら、そのまま働かせてもらいたい」と言ってくれましたので、何とか船舶整備工場を維持できる方法はないかと考え、2つの条件をクリアできるなら「やってみよう」と決心しました。その事を社長に伝えに行くと「えかった」と発せられ、心配事が解決したかのように、その翌日、他界されました。ですので、事業継承の手続きや準備ができないまま、代表者不在となり、一旦、事業所を畳み、新たに起業する形にさせていただきました。
■それはなかなかドラマチックと言いますか、「やっぱりできません」とは言いづらい状況ですね。ちなみに2つの条件とは、どのようなものだったのでしょうか?
-地域の漁業者が減少する中、事業内容を同じのままでの経営は困難でしたので、一つは新規事業部門を立ち上げることで、もう一つは出資金を須佐の漁業者を中心に500万円以上確保することでした。新規事業部門としては、船舶の販売とレジャー船の管理受託、レジャー船のレンタルの3事業で、こちらを始めるにも、出資金と同様、漁業者を中心とした水産業関係者のご理解とご協力を得なければならないので、社長に「やります」と言ったものの決して簡単にクリアできるものではありませんでした。
■そうでしょうね。漁業者の方とレジャー目的の方の揉め事は日本全国である話だと聞きますし、特に「漁業は自分の代まで」と決められている方にとっては、受け入れ難い話だと想像できます。ましてや、身内や知り合いならいざ知らず、地域外から来たよく知らない人に、受け入れ難いことを求められるとなると「はい。そうですか」と簡単に話は進まないでしょうね。
-はい。正にその通りで、最初は批判的な意見の方ばかりでした。しかしながら、地元で船舶整備ができないことは漁業者の方も困るわけで、繰り返し説明会を開き、「このままでは須佐の水産業は直ぐにでも立ち行かなくなりますよ」と、粘り強く漁業者の方に理解を求めました。地域の水産業のことを思い、赤字が続いても整備工場を継続し、亡くなる間際まで漁業者の事、地域の将来を考えてた社長とは裏腹に、当事者意識のない批判的な意見を受けていますと、私の性格なのでしょうが益々やる気が出て、途中からはお伺いではなく、これは将来をかけた闘争だという意識が芽生えました。そのような期間を3ヶ月過ごし、最終的には「やってくれるならしっかり頼む」と、須佐漁協会員の過半数以上の承諾を得ることができ、行政からの許可も得、漁業者の妨害をしない範囲でレジャー船の受け入れも可能となりました。また、須佐の漁業者の方を中心に23名の方から資本金を出資して頂け、ちょうど500万円集めることができました。
■西田さんの男気と覚悟がヒシヒシと伝わる話ですね。そのような経緯を経て、何とか船舶整備工場を須佐に残せたものの、やはり先行きは不安ではないでしょうか?
-全国的に漁業者の数は少なくなっていますが、実のところ、須佐は県内でも新規漁業就業者が多い地区でもあります。このお話しが他の場所でのことでしたら引き受けていなかったです。また、須佐はホルンフェルスもそうですし、須佐湾エコロジーキャンプ場など、地域資源もあり、交流人口を増やせるポテンシャルは、かなり高いと思います。それらとマリンレジャーを組み合わせることで、船舶整備工場を維持し、須佐の水産業の下支えをしながら、地域活性化にも寄与することができると考えています。その為には、やはり地域の方のご理解ご協力が必要となってきますので、社長がそうされたように、可能性を信じて、訴えかけ、地域社会の持続を実現するべく努めていきたいと思います。
■確かに、須佐には千畳敷にも劣らない絶景を誇る高山があるのにも関わらず、広く知られてなかったり、週末には驚くほど行列ができる飲食店や、県内でも珍しいジェラート専門店があったりと、地域が持つポテンシャルは高いと感じます。水産業の下支えだけでなく、新たなコンテンツを創造する会社としても須佐海興さんに期待させていただきます。ありがとうございました。
株式会社須佐海興
萩市大字須佐4963-3
℡ 090-8063-3448(西田)