特集 (一社)萩大志館&NTAトラベル プロジェクト「東京遊学ツアー」を終えて

2006年に任意団体として発足した萩大志館。この北浦うぇぶでも創刊当初紹介させてもらったこともある、東京在住の萩出身者ビジネスマンが集まり地元のために活動する団体です。その萩大志館が昨年10月一般社団法人格を取得し活動の幅を広げられました。萩大志館の事業は故郷の課題解決と価値の創造に寄与することを目的としたもので、大きくは教育事業、観光事業、コミュニティ事業の3本立てとなっています。
先月3月27日(火)~28日(水)にかけて行われた「東京遊学ツアー」は教育事業に該当する事業で、立志式を終えたばかりの萩の中学2年生を1泊2日で東京へ招き、第一線の企業を訪問するというもの。受け入れてくれるのは全員萩出身のビジネスマン・経営者で、仕事の内容や働く環境、仕事に対しての理念や信念を聞きつつ、萩を出て都会で生きることを選んだ理由やふるさとへの想いについても語り合う、ユニークなOB訪問ツアーです。
企画として興味深いところは、訪問先と事業の資金集めです。国内大手の携帯電話会社、商社、食品会社など錚々たる大企業に加えて、最近では「ちはやふる」など多くの有名映画や誰もが視たことのあるTVCMを制作するROBOT社、そして萩出身者が創業者でありパリでも展覧会を行う世界的アパレルブランド・roar社まで、さまざまな業界を1度に体験できます。それぞれ業界の最先端をゆくトップ企業ばかり。「現代版長州ファイブ」といっても過言ではない企画です。…にも関わらず、この「東京遊学ツアー」の参加費はなんと2千円。旅費の大部分は萩出身者からの寄付で賄われているのです。萩大志館の活動に賛同する出身者や市民が、月々500円から支援金を寄付できる「マンスリーサポーター制度」を利用して積み立てられたお金が、このツアーの資金になっているとのこと。さらに、1泊2日で5社訪問、移動は全て公共交通機関という弾丸ツアーを安全に催行したのは、萩市に本社を置くNTAトラベル。このように100%民間資金・民間パワーで作られたまったく新しい教育プログラムに、定員の5倍近い応募が集まったそうです。
北浦うぇぶでは、この「東京遊学ツアー」に参加した6名のうち4名が集まった「振り返り会」に参加。ツアーの感想と遊学後の心境の変化などを聞いてきました。人生を左右する高校受験を前にした子供達は、東京と萩、どちらで生きたいと思ったのでしょうか?

茨木 仁実さん

訪れた大手の会社はとにかくビルが大きくてビックリしました。商社のビジネスはとても複雑でしたが、「安く買って高く売る」という原則の話や「成功するためには段階がある」という先輩のお話が印象的でした。食品会社では2人の先輩が出迎えてくださったのですが、萩出身の同級生同士とのことでびっくり。女性の先輩は、原料を購入してもらうために加工後のレシピを考案する、という珍しい仕事をされていて、そんな仕事もあるのかと驚きました。ROBOTは映画からポスターまで多様な業務を手がけていて、CM制作の話も聞けました。日頃なにげなく見ているCMですが、「人選が凄く重要」など、裏側の話は大きな学びになりました。萩に戻り数日過ごすと、萩の良さを改めて感じました。東京は人やモノが多すぎて、色々なものが通り過ぎていく感じでしたが、萩は些細なことに気付ける環境で、実はそんな些細なところに大切なものがあるんじゃないかなと思えました。自分の将来を考えると、田舎では出来ることは限られるけど、都会も限られる部分もあったりもして、田舎でもなく大都会でもない、そんな場所に住みたいなと。色々な仕事を見学し、先輩方のお話を聞いて「今すぐにでも働きたい!」と思いました。私は中学生だけど、学業と両立してできるなら何か仕事をしてみたいです。

近江 優さん

東京、しかも普通の観光地ではないオフィス街を体験して「経済が発展している」ってどんなことなのか、リアルに感じました。携帯電話会社は、携帯の事業だけをイメージしていたけど、若者の多くが知る人気ゲームにも関係していたりして、展開している事業の幅広さに驚きました。ROBOTでは、気になっていた最新の人気映画の制作を担当されていることに驚き、roarでは、こんな格好いい服を萩出身の先輩が作っているんだ…と感動し、僕も買いたいな…と思ったのですが、値段を見てビックリしました。
東京遊学に行く前は、自分がまだ知ることのない都会の仕事環境に期待を寄せていました。実際に行ってみると、確かに便利は良さそうですし、萩にはない仕事があって魅力を感じるところもありましたが、萩に帰ってくると凄く心が落ち着き、自分に合っていると思いました。萩に生まれたことを誇りに、感謝の気持ちを忘れずに勉強して、将来は萩で働き過ごしたいなと思っています。

木川 梓未さん

東京について先ず圧倒されたのは満員電車でした。特に渋谷へ向う電車は想像以上のものでした。携帯電話会社の先輩はとても偉い立場にいらっしゃるのですが、学生時代は決してエリートではなくゲームばっかりしていたという話が面白かったです。食品会社の先輩は、多くの営業マンを纏める役をされていて、若いのに凄いなと。ROBOTではポスターを制作するデザインの仕事で、「どうしたら人が目にしてくれるか、どうしたら人に伝わるか」を一つひとつ考えて制作していると聞き勉強になりました。roarでは、先輩から「自分のやりたいことにこだわって、自分の世界をどんどん作っていくんだ」と言われ心に響きました。今まで遠い存在だと思っていた「東京」という街が、私の中で一気に近い存在になりました。萩で生きるか東京で生きるか、まだ決められませんが、私の可能性を信じてくださったこのツアーの関係者の方々にも認めてもらえるよう、何か大きな存在になれるように生きたいです。

山本 真衣さん

東京に着くと見るもの全てに驚いていました。商社では「今必要とされるものではなく、10年先に必要とされるものは何かを予測して事業を育てなくてはいけない」と聞き、スケールの大きさに感動しました。食品会社はお菓子を作って売ってる会社と思っていたら、企業と企業の取引や、営業の仕事など、裏側にいろんな仕事があることに驚きました。ROBOTでは、丁度モスバーガーのCMを作っている現場を見せてもらいテンションがあがりました。今私は、都会で生きたいと思っています。萩に帰ってきて確かに落ち着くなと思いましたが、都会はいろんなことを吸収でき成長できる場所だとこのツアーで思ったからです。満員電車はしんどそうですが、それ以上に自分が成長できる喜びがあるのではないかと思います。

萩大志館代表の井関隆行さんは、「この数年間でインターネットやSNSが、ふるさととの距離・関わり方を大きく変えました。私たちは萩の外にいても萩と常時接続して、いろいろな活動ができます。この子達が大人になる未来、どこで生きようとも、その時代の技術・手段を駆使して萩を支える人材『萩支民』になることを期待しています」と話しています。萩大志館では今後も、民間ならではの教育カリキュラムを作ることで公教育を補完し、萩の子供の教育環境を補強していきたい、と考えているそうです。詳しく知りたい方は「萩大志館」で検索を。また新しい事業を期待したいですね。

上段左から萩大志館理事:井関隆行さん、萩在住の活動会員:大平憲二さん
下段左から近江優さん、木川梓未さん、茨木仁実さん、山本真衣さん、NTAトラベル:溝部美佳さん