日本全国の食べ物の魅力を紹介・発信するNHKお昼の人気番組「うまいッ!」で、取り上げられ、全国的に注目を集めている阿武町の無角和牛。肉用牛の中でも全国で200頭ほどしか飼育されてない希少な品種でありながら、「サシが少ない肉」「シワい肉」と認識され、価値が付かず、このままでは商業用に生産し続けることは難しいどころか絶滅の可能性まであると考えられていた阿武町のブランド牛です。そのような無角和牛に価値を付けていき、地域の産業として継続していけるよう、その可能性を模索する無角和種振興公社事務局担当・藤尾凜太郎さんにお話しを聞いてきました。
■藤尾さんは地域おこし協力隊として阿武町に移住してこられたと聞きました。出身はどちらで、地域おこし協力隊に応募したきっかけは何だったのでしょうか?
-出身は神奈川の平塚市です。大学も神奈川の大学に行きましたので、生まれも育ちも神奈川県です。大学ではまちづくりや地方創生に関連した学科を専攻しており、次第に地方に目を向けるようになっていました。大きなきっかけとしては友人が大学を休学して石川県の方に地域おこし協力隊として着任し、その後、退学して本格的に移住していきました。彼の協力隊任期中に、石川県まで遊びに行って、その生活や仕事を見た時に「こういった生き方もあるんだ」と知ることができたことです。
■阿武町に応募した理由は何だったのでしょうか?
-阿武町の募集要項には、無角和牛のブランディング担当だけでなく、阿武町で揚げられる魚介類のブランディング担当と新設されたABUキャンプフィールドに関連したイベント企画担当の枠があり、僕自身、魚釣りも魚を食べるのも好きで、阿武町という魅力的な町で魚のブランディングに関わるのは面白そうだなと着目したのがきっかけです。
■その中で、無角和牛は現在全国放送のTV番組で紹介されるほど注目されていますが、先ずはどのような取り組みから始められたのでしょうか?
-無角和牛は「脂の少ない赤身の肉」と謳って売り出されていたのですが、どなたに聞いても「シワくって美味しくない」と言われるんです。移住してきた当初は「シワいって何?」と軽く困惑し、「肉が固くって嚙み切りにくい」という意味だと知り、無角和牛の販売など関わる人からもそう評価されているのは可哀そうというか勿体ないなと感じていました。どのような料理で使われるのかと聞くと、やはり和牛という名称が先行していることもあって焼肉用に薄切りで提供されていることがほとんどでした。赤身のお肉は薄切りにすると、火が早く通りすぎて、すぐ中の肉汁(旨味成分)が抜けてしまい、固い肉になってしまいます。なので、お肉が悪いのではなく、食べ方や売り方が無角和牛に合っていないということで、わずかにあった焼肉用としてのニーズにも引き続き応えつつ、ブロック肉の販売を最初に取り組んでみました。
■ブロック肉の販売といっても出荷先や販路を開拓しなければならなかったと思います。
-はい。元々は道の駅阿武町の直売所でひたすら焼肉用として販売していた状況でしたので、販路開拓のため県内のレストランなどに営業に行きました。そのきっかけとなっているのは、阿武町の地方創生関連事業企画・推進を手掛ける一般社団法人STAGEの代表である田口さんです。田口さんは元々東京で食関連の企業で勤めておられたこともあって、飲食店のとのコネクションを持っておられました。今までは直売所で何となく売っていた無角和牛を美味しく食べてもらう環境を作っていき、しっかりと価値付けをしてこうと、田口さんから色々教わりながら、販売方法の変更、コネクションを頼りに東京のレストランなどへ勉強・売り込みに行きました。
■東京でのウケは良かったということですね?
-頭数が少ないという珍しさからの食い付きはあったと思います。また、赤身肉というワードに注目し調理されているお店では、和牛でありながらサシが入らない牛という部分に面白さを感じている方もおられました。
■具体的にどのような調理方法が無角和牛には向いていたのですか?
-部位によっても違いはありますが、やはり厚みのあるステーキになるかと思います。もちろん食べられる方の好みにも関係しますが、できれば焼き具合をレアにして食されるのが無角和牛の赤身肉の特徴に適していると評価していただいております。
■販路も拡がり、全国放送のTV番組でも取り上げられ、ブランディングに手応えを感じておられますか?
-元々が安すぎた価格設定でしたので、ブロック肉に関しては当初の販売価格からは3倍近くの値で取引されるようになり、手応えは感じていますが。生産数の少なさもあって、今の価格でも補助金なしに産業として継続できるかといえば、まだその域には達していないというのが現状です。
■デフレ、円安、燃料の高騰によるエサ代の高騰などなど、和牛農家に限らず畜産業は、本当に大変な時代です。課題解決の糸口に取り組むべきことは何だとお考えですか?
-色々な媒体で取り上げられ注目を浴び、お陰様で問合せが増えましたが、飼育頭数が少なく出荷できる量が限られていますので、品種を守り、ニーズに応えるためにも飼育頭数を増やすことが必要だと感じています。そうなると設備投資も必要になってきますので、やはり利益率を高めることが解決の糸口になるのかなと思います。
■最後に、移住してこられた藤尾さんのお仕事以外での人生の展望をお聞かせください。
-阿武町に移住したきっかけは先にお話ししたものなんですが、神奈川に住んでいたときから田舎での生活に憧れがありました。その根底は福岡県の田舎に住んでいる祖父が与えてくれたもので、毎年祖父の家に遊びにいくと、海で魚釣りをしたり、川でエビを獲ったりし、獲ったものを持ち帰って食べるといった、田舎ならではの遊びや生活を体験させてくれました。現代社会では、獲って食べるではなく、買って食べるが当たり前です。誇張され「都会の子どもは魚が切り身で泳いでいるって思っている」という話がありますが、生きた状態の魚を自然の中で見たことのない子は結構いるんじゃないかと思います。それが悪いって話ではないのですが、田舎の生活にも素晴らしさはあるってことを知ってもらう機会は必要だと思います。この10月に娘が生まれました。祖父が私にしてくれたように、自分の孫の代にも、この阿武町の暮らしを残していければという気持ちで日々を過ごしています。
■ありがとうございました。
