長門市の豊かな自然の中で、林業というフィールドを軸に、人とまちの未来を紡ごうと情熱を燃やすNPO法人あすなろながとの理事長を務める福永篤史さん。歌舞伎の衣裳方という異色の経歴から一転、故郷・長門市で林業家として独立。現在は「福ノ杜林業」を経営する傍ら、NPO活動を通じて地域の課題解決や新たな価値創造に挑んでいます。福永さんが見つめる長門市の未来、そして森と人が共生する社会とは。その熱い思いに迫りました。
■まず、福永さんのご出身と、これまでの経歴について教えていただけますか?
-出身は長門市仙崎です。高校は萩工業を卒業しまして、その後、東京の服飾専門学校に進学しました。卒業後は、松竹衣裳株式会社という会社に就職し、歌舞伎の衣裳方として、主に舞台の衣裳の製作やデザイン、着付けなどを担当していました。着物の専門の会社ですね。地方巡業も多く、全国を飛び回る日々でした。
■服飾、特に歌舞伎の衣裳という世界から、林業へ転身されたきっかけは何だったのでしょうか?
– 29歳の時にUターンを決意したのですが、その直接のきっかけは、大阪府門真市で出会った一本の大きなクスノキです。その木にものすごく感動しまして、それから木というものに強い興味を持つようになりました。この出会いが、私の人生を大きく変えることになりました。
■故郷の長門市に戻られてから、どのように林業を学ばれたのですか?
-林業は家業ではありませんでしたので、Uターンしてから本格的に学び始めました。まず、地元の林業会社である株式会社シンラテックに勤めました。そこで、これまであまり活用されてこなかった「椎の木」といった広葉樹の可能性に触れることができました。その後、林業の基礎をより深く学ぶために森林組合へと籍を移し、スギやヒノキといった主要な樹種についての知識と技術を深めました。
■そして、「福ノ杜林業」として独立されたのですね。現在の主な事業内容について教えてください。
– 35歳の時に「福ノ杜林業」として独立しました。現在、起業して4期目になります。主な事業は素材生産、つまり丸太の生産ですね。これが売上の6割から7割を占めています。
■単に木を生産するだけでなく、木や森への関心を高める活動にも力を入れていらっしゃるそうですね。
-そうですね。「木と友達になる」というコンセプトで、ツリークライミングなどの体験活動を提供しています。木に登ったり、木の種類を覚えたりする機会を通じて、実際に木に触れることで親しみを持ってもらいたいんです。東京での仕事を通じて地方の現状を見てきた中で、林業は地域活性化の一つの鍵になると感じていますし、それ以上に、木を好きになるきっかけを多くの人に提供したいという思いが強いです。伐った木をテーブルにして地域の人に使ってもらったり、木のことを話すきっかけを作ったり。そういったプロダクトを街に届けることで、林業家が地域に貢献できる価値があると考えています。
■長門市の林業の現状と未来について、どのようにお考えですか?
-長門市も林業を推進しようという動きがあり、特に「椎の木」のような広葉樹の活用は面白いテーマだと感じています。ただ、全国的に見れば、国産材の利用はまだまだ課題が多いのが現状です。建築材としても、コスト面や品質管理の安定性といった面で輸入材に優位性があります。しかし、悲観はしていません。長門の森に入ったことがあるか、長門の木を知っているか。まずはそこからだと思うんです。長門産材を使うことよりも、森や木への愛着を育むことのほうが、長い目で見れば重要だと考えています。
■林業家としての活動の傍ら、NPO法人「あすなろながと」の理事長も務めていらっしゃいますね。設立の経緯と、主な活動内容について教えていただけますか?
-「あすなろながと」は、昨年の3月に設立しました。元々、市のまちづくり協議会に参加していて、もっと民間の立場で、自由で柔軟な中間支援ができないかと考えていたのが設立の経緯です。主な活動は、市民活動の支援や、地域資源を活かした新たな事業の創出です。現在は、市からの委託業務として市民活動支援センターの運営も行っています。将来的には、ゲストハウスの運営なども構想しています。長門市は、行政との距離が近く、新しいことにチャレンジしやすい土壌があると感じています。
■NPO活動を通じて、どのようなことを目指していらっしゃいますか?
– NPOの役割は、「ふつふつとした思いを持つ人たちを繋ぎ、新しい活動を生み出すきっかけを作ること」だと考えています。何かやりたいけれど、どうすればいいか分からない。そんな人たちの背中を押せる存在でありたいですね。私自身、Uターンして林業を始めた時、多くの人に支えられました。今度は私が、誰かの挑戦を応援する番だと思っています。
■最後に、長門市で何かを始めたいと考えている方々へメッセージをお願いします。
-私が林業で起業できたのも、地元だったからこそだと思っています。長門市には、行政との距離も近く、新しいことにチャレンジしやすい環境があります。もし、何かやりたいことがあるなら、恥ずかしがらずに声に出してみてほしいです。きっと、応援してくれる人が現れるはずです。「これやりたいんだけど、どう思う?」そんな一言から、新たな繋がりや活動が生まれると信じています。林業もまちづくりも、一人ではできません。色々な人が関わり、知恵を出し合うことで、より良いものが生まれる。私たちの活動が、その一助になれば嬉しいですね。
■ありがとうございました。
特定非営利活動法人 あすなろながと
長門市東深川1324番地1
℡ 0837-27-0071