新春恒例!年男インタビュー!2026 その3 株式会社あんの園芸 代表取締役社長 阿武 択磨さん(1990年生まれ)

■まずは、これまでの35年間の歩みを振り返っていただけますか?

一言で表現するなら、まさに「生き急いできた」人生です。まだ35歳ですが、その密度の濃さには自信があります。
出身は萩市福栄で、中学から大学院までの12年間は、陸上競技の中長距離走に打ち込んでいました。高校3年の12月まで走り続け、大学院に進学してもなお競技を続けていたので、人生の約3分の1は走っていた計算になります。
また大学では生物生産学部に進み10時間ぶっ通しで顕微鏡を覗くなど研究にも明け暮れていました。就職活動では当初、国家公務員を目指していましたが、グループワーク試験で不合格になりまして、その後、県庁を受けてもグループワーク試験で不合格。「自分は公務員には向いていない」と悟り、成果主義である真逆の民間企業の営業職に就職します。

東京に本社がある大手機械系商社に入社し、電力会社や重工メーカーを相手に、原子力・火力・水力・地熱といったエネルギーインフラに関わる設備の営業を担当していました。
勤務地は、神戸の後に小倉。小倉時代は九州全域を回っていたので、1週間のほとんどはホテル泊まりでした。商社時代、特に印象に残っているのは、大手重工メーカーと共にメキシコのプラント建設に携わったことです。時差のあるメキシコとのやり取りで、接待で飲んだ後に会社に戻って深夜2時にメールのやり取りをするなど、正に馬車馬のごとく働いていました。
肉体的には限界ギリギリでしたが、この時期に培ったタフな精神力や、現場での瞬時の判断力は、今の経営にも確実に活きていると思います。

30歳を迎えるタイミングと、新型コロナウイルスの流行が重なったことが大きな転機となりました。「一生続ける仕事ではないな」とコロナ禍以前にも退職を考えていたのですが、コロナ禍で人と人との関わりが希薄になり、「今が辞めるチャンスだ」と、辞職願いを提出しました。その後、「家業を継ぎたい」と両親に伝え、父からも今の仕事をしっかりやり切ってから帰ってこいと言ってもらえ、退職願いから10カ月の引継ぎを終え、会社で学べることは学びつくし、胸を張って萩に帰ることになりました。

 

■営業職からまったく違う分野での挑戦ですが、4年弱で慣れましたか?

小さい頃から両親の仕事を見たり手伝ったりしていましたので、転職というより復職に近いです。また、大学で生物学を専攻し、魚や昆虫の生態学や遺伝学、分類学を研究していました。対象は花に変わりましたが、生き物を扱う根本的な理論は同じです。花卉農業は天候任せに作物を「収穫」するものではなく、一定の規格と品質を持った製品を安定的に作り出す「工業」的な側面をもつ仕事になります。品種の遺伝的特性を見極め、環境を制御し、開花時期や品質をコントロールして、バラつきのない高品質な花を量産する。これはまさに商社時代に学んだ工業製品の製造プロセスそのものです。しかしながら、それは機械的な生産ではなく、自然との調和が必要で感覚的な要素も含む職人技を要するところもあり、5年経とうとしている今でも、父が持つ技術の4割くらいしか継承できていません。全てを学びつくすには10年かかると思っております。父は花づくり一本に50年の人生なので、到底追いつくことはできません。対して、経営面では商社時代に培ったスピード感を持っての経営判断を心掛けていますので、計画通り順調に進めることができています。

 

年男を迎えるこの1年をどのように過ごしたいとお考えですか?

1年単位でのビジョンはあまり考えていません。40歳になるまでは事業の「基盤」を盤石にすることに全力を注いでき、そのために今は学びの期間として知識や経験値をためています。具体的には、自己資金の範疇で事務所や作業場のリノベーションを進めていきたいと考えております。これは単なる修繕ではなく、若い人材や優秀な人が「ここで働きたい」と思えるような、清潔で現代的な労働環境を整えるための投資です。農業は3K「きつい、汚い、危険」のイメージがありますが、そのイメージを変えていきたいと思うのと、農業は儲かる仕事だと証明したいと考えております。その先のロードマップとしては、40代を「挑戦の10年」と位置づけています。強固になった基盤を元に、事業規模を一気に拡大させ、せっかくの一度きりの人生を思いっきり勝負したいと考えております。陸上競技の経験から昔からフェアな勝負は好きな方です。ただ、借金で追い込まれるのは嫌なので、今順調に進んでいるキャッシュフローの中で着実に足元を固め、機が熟した時に一気にアクセルを踏んでいこうと考えています。あと…、切実なところで、今まで後回しにしていた結婚を真面目に考えたいと思ってます(笑)。

 

■最後に、阿武さんの人生観をお聞かせください。

私が大切にしているのは「感謝」「誠実」「自由」の三信条です。
まず「感謝」は、どんな状況でも感情的にならず、平和な心で周囲に接すること。人間なので感情的になることもありますが、感謝の思いで自分の感情はコントロールするように努めております。商社時代、理不尽なことも多々ありましたが、それを乗り越えられたのは周囲への感謝があったからです。
次に「誠実」。これは人との約束を守ることはもちろん、自分自身との約束を破らないことです。何に対しても信頼関係が大切なので、期限を守るであったり、レスポンスの速さであったり、レスポンスの質を相手が求めるレベルの少し上のレベルで返すなど心がけております。
そして最後に「自由」。これは単に好き勝手をするという意味ではありません。誰かの指示や時代の空気に流されるのではなく、やることもやらないことも、すべて自分の意志で決定し、その結果に責任を持つということです。
花卉生産という仕事を通じて、精神的にも経済的にも自立し、この世界の真理に素直に従いながら、本当の意味での「自由」を手に入れること。それが私の究極の目標です。