萩ラグビーの未来をグラスルーツから育む ~池永祥吾さんの情熱が紡ぐ育成の輪~

萩市に楕円球を追いかける子どもたちの元気な声が響き渡る。未来のラガーマン、ラガールを育て、地域にラグビー文化をしっかりと根付かせたい――。そんな熱い想いを胸に活動するのが、元・萩商工高校教員の池永祥吾さんです。彼が中心となり運営する「萩ジュニアラグビースクール」(タグラグビー)と「萩ジュニアラグビースクール」(ミニ・ジュニアラグビー)は、萩のラグビーの未来をグラスルーツ、つまり草の根から支えようという大切な試みです。その背景には、長年ラグビーの現場を見つめてきた池永さんの強い危機感と、地域スポーツの持続可能性への深い洞察がありました。
池永さんが萩でラグビー育成に情熱を注ぐ理由は、高校での指導経験に深く由来します。萩商工高校教員時代、ラグビー部に関わる中で、当時のチーム運営の現実に直面しました。「以前は県外から選手を集めて強化を図る側面もありましたが、少子化が進む中、いつまでもその方法に頼るわけにはいかないと感じていました」。特に県内の強豪校の台頭もあり、県外からの選手獲得は以前より難しくなっていました。萩市内でラグビーに親しむ子どもたちを増やし、その土壌を豊かにすることこそが、地域のラグビーを守り、発展させる道だと考えられました。「下から、地域で育てていかないと未来はない」。その切実な想いが、クラブ設立の大きな原動力となりました。
クラブ設立への第一歩は、タグラグビーから始まります。「いきなりタックルは怖いと感じる子もいる。まずはボールに触れる楽しさ、仲間と走り回る喜びを知ってほしい」。5年前、幼稚園児と小学生を主な対象とした「萩ジュニアラグビースクール」(タグラグビー)を立ち上げた。安全にラグビーの基本と楽しさを体験できるタグラグビーで裾野を広げ、今年4月には、より本格的なラグビーへのステップとして、小学3年生から中学3年生までを対象とするタックルありの「萩ジュニアラグビースクール」(ミニ・ジュニアラグビー)を発足。子どもたちが段階的にスキルアップできる環境を整えられました。

現在、両クラブには合わせて約33人の子どもたちが集い、汗を流しています。ミニ・ジュニアラグビーにも中学生を含む約11名が在籍。練習では、池永さんの指導哲学が息づいています。「『こうしろ』と指示するのではなく、『どうしたい?』と問いかけ、子どもたち自身に考えさせることを大切にしています」。技術指導以上に重視するのは、子どもたちの主体性と、「ラグビーが楽しい!」という純粋な気持ち。そして、「One Team」の精神、相手へのリスペクト、感謝の気持ちといった、ラグビーが育む人間的な価値観を自然と学べるような指導を心がけられています。勝敗だけでなく、仲間との協力やフェアプレーの精神を体得することが、彼らの将来にとって大きな財産になると信じられます。
しかし、クラブ運営には課題も存在します。最大の悩みは練習場所の確保。安全なタックル練習には芝生のグラウンドが理想ですが、萩市内には気軽に利用できる施設が限られています。「本当は芝生で思い切りプレーさせてあげたい」という思いを抱えつつ、現在は萩商工高校の土のグラウンドを借り、砂場を利用したり、時には海岸で練習したりと工夫を凝らしています。また、小学校から中学校、中学校から高校へと進む段階でラグビーから離れてしまう選手の多さも、県内共通の課題。タックルへの不安感もその一因と考えられ、クラブでは恐怖心よりも楽しさが上回るよう、丁寧な導入と声かけを続けられています。
近年進む中学校部活動の地域移行は、クラブにとって追い風となる可能性もあり、将来的に部活動の受け皿としての役割も期待されます。ただ、そのためには指導者の確保や安定した活動基盤の確立が不可欠。現在は池永さんをはじめとするボランティアコーチが運営を支え、年会費(タグラグビー6千円、ミニ・ジュニアラグビー1万2千円)は保険料や登録料、用具費などでほぼ使い切ってしまうそう。「保護者の負担を軽くし、多くの子に参加してほしい」という想いから、手弁当で運営されます。
池永さんがラグビーを通じて子どもたちに伝えたいのは、技術や体力だけではない。「ラグビーは多様な個性が必要なスポーツ。体が大きい子も小さい子も、足が速い子もそうでない子も、それぞれの役割がある。仲間を信じ、助け合い、困難に立ち向かう経験は、必ず将来の糧になるはずです」。勝つ喜び、負ける悔しさ、そして何よりも、相手を尊重し、仲間と協力するラグビー精神を学んでほしいと願っている。「大人になった時、『萩でラグビーをやっていて良かったな』と思ってくれたら、それが一番嬉しいですね」。
萩ジュニアラグビースクールは、単なるスポーツクラブではなく、地域の子どもたちの成長を支える温かいコミュニティ。池永さんの情熱と、子どもたちの笑顔が、萩のラグビーの未来を明るく照らし始めています。興味のある方は、ぜひ一度、その活動に触れてみていただきたいです。きっと、ラグビーボールが繋ぐ、素敵な出会いが待っているはず。問い合わせは池永さんまで。

萩ジュニアラグビースクール(タグラグビー)
対象 幼児、小学生
練習日 毎週土曜日14時~16時
場所 旧土原保育園グラウンド

萩ジュニアラグビースクール(ミニ・ジュニアラグビー)
対象 小3~中3
練習日 毎週水曜日19時~20時30分/毎週土曜日9時~11時
場所 萩商工高校グラウンド

体験は随時受付中
問 萩ラグビースクール事務局(池永)
☎ 080-1636-7921